So-net無料ブログ作成

#キリスト教的神学の土台としての,西洋古典語による原典講読 [学問]

#キリスト教的神学の土台としての,西洋古典語による原典講読
 今日は,北星学園大学のチャペル・タイムで,西洋古典語による原典講読の重要性について,以下のお話をしました.ご笑覧ください.

2019年7月2日(火) 北星学園大学チャペル
題目   「ゆっくりと急げ festīnā lentē!」
聖書   ルカによる福音書 14章31節
讃美歌  21−495番「しずけき祈りの」

 今読んだ言葉の最良の注釈は,「festīnā lentē! ゆっくりと急げ」ではないかと思う.この格言は,そもそも,スエトニウス(Gaius Suetonius Tranquillus, 70頃 - 140頃)の『ローマ皇帝伝』にまで,さかのぼる.それによると,「ゆっくりと急げ」は,皇帝アウグストゥス(Gaius Julius Caesar Octavianus Augustus, 前63-後14)のお気に入りの言葉であった.ただしラテン語ではなく,ギリシア語で Speude bradeōsとなっている.その意味は,拙速の戒め,慎重の勧めといえる.
 その後,ローマ時代の著作家アウルス・ゲッリウス(Aulus Gellius, 125頃 - 180以降)は,その著作『アッティカの夜』において,Speude bradeōsについて解説を加え,「これは,たゆまぬ努力による速さと,慎重さゆえのゆっくりとを同時にもてということであり,この二つの相反する要求をきちんと満たし得たとき,人間は成熟したことになる」と言っている.
 だれがギリシア語をラテン語に訳したかは不明であるが,近世初期のキリスト教人文主義者エラスムス(Desiderius Erasmus Roterodamus, 1466- 1536年)は,その著作『アダギア(格言集)』において,Festīnā lentēについて長々と述べている.とどのつまり,この格言は三つの場合に有用であると説く.
 (1)「人に忠告を与えるときには,まず熟慮せよ.そして熟慮ののちは,速やかに実行せよ」という教えとして,
 (2)「理性によって感情を制御すべきである」という教えとして,
 (3)「せっかちの戒め」として.
 「ゆっくり急げ」という言葉は,さまざまな状況に適用することができるだろう.自分の例で恐縮だが,世間の仕事を退職したあと,現在,閑暇(ギリシャ語:スコレー,ラテン語:オーティウム)を,西洋古典語による原典講読に用いることができる幸せにあずかっている.以下の次第である.
 日曜日 ヘブライ語聖書原典講読.毎月1回.
 月曜日 プラトン『ソクラテスの弁明』ギリシャ語原典講読,およびエラスムス『アンティバルバリ(無教養な人たちに反対する者たち』).毎月2回.
 水曜日 ニュッサのグレゴリウス『善き行為について』ギリシャ語原典講読.毎週.
 木曜日 ペトラルカ『秘密』ラテン語原典講読.毎月1回.
 金曜日 キケロ『老年について』ラテン語原典講読.毎月2回.
 日本語訳ならウサギのようにピョンピョン進むであろうところを,カメのようにのろのろと進んでいる.参加者のことばを紹介しよう.「今回も,重い足取りでやって来ました」.「ラテン語のたった一つの単語の意味を考えるのに,1時間もかかり,大変です」.「プラトンのギリシャ語は,どれくらいやれば,わかるようになるのでしょうか」.他でもなく私自身も,毎回,悪戦苦闘の準備を経て講読会にのぞんでいる.とはいえ,私たちは,けっこう楽しんでいる.
 西洋古典語による原典講読は,知識を得るという利益だけではなく,知識に至る苦楽の過程を通じて学問的な基本姿勢が養われていくという,何にも代えがたい宝ものを提供してくれる.それを考えると,新幹線的急進よりは各駅停車的鈍行のほうがいい.できれば歩行的一歩一歩の前進がもっといい.
 「てきぱきと」「さっさと」とは,せわしい日本人の口癖であるが,日本におけるキリスト教神学の営みにも,そのような傾向が見られる.西洋古典語による原典講読の,一歩一歩着実に踏みしめていく,地道な努力の積み重ねによる堅固な土台なしに,それを飛び越えて,いきなり軽率に神学なるものを構築しようとする拙速が,相も変わらず横行している.まさに「砂上の楼閣」である.そういうことをしていると,やがて破綻が生じる.
 キリスト教神学の営みにおいて,今なによりも一番重要なことは,西洋古典語による原典講読の地道な継続による土台固めである.急ぐのであれば,ゆっくり急がなければならない.アウルス・ゲッリウスの「たゆまぬ努力による速さと,慎重さゆえのゆっくりとを同時にもて」という勧めと,エラスムスの「せっかちの戒め」としての,festīnā lentē! を心にとどめたい.
 祈り
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。